米国の要求は、ダウンロード違法化の対象を、映像・音楽だけでなく全著作物に拡大せよ、というもの。そうなれば、漫画や小説を「Share」などファイル交換ソフトで入手する行為やネットの画像検索にあがった違法な写真をコレクションする行為などにも広く網がかかる。

 また、「非親告罪化」も要求項目だ(要求15.5(g)項)。今後、TPP知財関連で日本で最も議論になるのはこれかもしれない。現在、(私的複製でない)通常の著作権侵害には「最高で懲役10年又は1000万円以下の罰金」などの罰則があるが、親告罪だ。つまり、いくら警察が海賊版のアップや販売を摘発しても、著作権者などの被害者が告訴しない場合、起訴したり処罰はできない。

 これは警察にとって不便には違いないので、この告訴を不要とするのが「非親告罪化」だ。日本では米国の要求を受けた2007年頃に、「これが導入されたらパロディや同人誌が摘発されて文化が危ない」といった危機感もあって、やはり大きな議論を呼んだ。その際には導入は見送られている。

 実際にどれだけパロディや同人誌が摘発されるかはともかく、批判の根底にあったのは、当の著作権者が処罰を望んでいないのに、それでも国が処罰することの是非であり、つまりは「著作権は誰のため・何のためにあるのか」という問題だろう。

 「非親告罪化」は刑事の問題だが、著作権侵害には損害賠償といった民事の責任もある。関連する要望が、「法定損害賠償の導入」(要求12.4項)だ。本格的に導入された場合の短期的なインパクトでは、おそらくこれが大きい。

 「法定損害賠償」とは何か。通常の損害賠償は、著作権侵害で権利者などがこうむった実損害分しか賠償を求められない。通常たいした金額にはならず、しばしば弁護士費用にも足りない。日本の著作権は厳しいという一般の印象もあるようだが、現実にはこの賠償金相場などが原因で、大半の著作権侵害は訴訟に至らず終わっている。権利者の立場からすれば「泣き寝入り」だ。(実際には「実損害」という原則を補うルールもあるのだが、それを含めてこの現状である。)

 「法定損害賠償」とは、実損害の有無の証明がなくても、裁判所が(ペナルティ的な要素を含んだ)賠償金額を決められる制度で、米国なら故意の侵害の場合「1作品」あたり750ドルから15万ドル。実に1000万円強である。

 米国で知財訴訟が多く、賠償金額が日本と比較してはね上がる原因のひとつがこれだ。万一米国型の「法定損害賠償」が導入されれば、善かれ悪しかれ日本でも知財訴訟が激増する可能性はあろう。